H・P・ラヴクラフト『ラヴクラフト全集 (2)』

クトゥルフの呼び声

 ラヴクラフトといえばクトゥルフ神話、ということでいかにも重要そうに見えて、実際読んで見たら大したことも無かったような、そんな短編。
恐怖体験は悉く間接的に語られるだけで、主人公はそれぞれの話を聞いて回ってその裏側にあるものを組み立てて行くだけ。その割に最後は例の如く「俺はその内死ぬだろうから、この文書は内密に処分してくれ」で終わる。
主人公が葬り去られるには今一つ説得力に欠ける展開で、随分前に読んだ「ダゴン」の方が直接的なだけおもしろかったような気がします。

「エーリッヒ・ツァンの音楽」

 「ハスター」という言葉を思い出しましたが、あれこんな話だったでしょうか。
 恐怖がただ恐怖であっただけ語られて、その仔細を描写せずに終わる、いかにもラヴクラフトだなぁ、という短編でした。屋根裏とか、狂った音楽とかのモチーフもおなじみという感じですね。
ラヴクラフト作品はそういった漠然とした雰囲気を楽しむものだと思ってるので、これは全然ありだと思います。

「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」

 この1冊の頁の殆どを占める中篇小説。ミステリーテイストで進行するというラヴクラフトにしては珍しい語りです。(語りといえば結局この作品の語り手って誰だったんでしょう?)もっとも、トリックにあたる部分は割と明白でしたが。
珍しいといえば結局最後に諸悪の根源?であるカーウィンを倒してしまうあたりも、計り知れない巨悪に屈して終わるのが常のラヴクラフトにしては珍しい結末ですね。
とりあえずウィレット先生頑張った、超頑張った!地下探検のあたりは本当年甲斐も無く頑張りすぎだろうって感じでしたね。あのあたりは「狂気の山脈にて」なんかを彷彿とさせました。
 ストーリーの進み方としは最初割と退屈で、読む方としても中々前進しませんでしたが、過去においてカーウィンを私刑に!というあたりからおもしろくなりだして、終盤は一気に読めた感じです。
むしろ終盤にいたっては駆け足感が否めませんでしたね。そこまで書いたならもうちょっと事の顛末を語っても良かったんじゃないか、と。最後の方の〈浄め〉って何だったんだろう、とか。
なにより118番の塩が誰だったのか、やはり気になるところです。行間読むの苦手なんですが私の読むところではチャールズじゃないのかな、と思いますがどうでしょう。
オーンとハッチンソンを駆逐する動機はあるだろうし、ある程度軍隊を使役するだけの知識があったと考えればできなかないと思うんですが…
逆にチャールズ以外の何か復活させちゃったとしたら、「カーウィンを殺せ」とか、何も語らないとはいえ地下探検後のウィレット老医師が特段何の憂慮もしてないあたりに納得いかないし。

ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))

ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))